不登校支援としての「ネット出席制度」~沖縄でこそ活かすべき学習セーフティネットの現在地~

本文ダイジェスト動画

はじめに

不登校という言葉に、単一の原因はありません。けれど、学校に通えない状態が長引いたとき、多くの家庭が最初に不安を感じるのは「このまま出席日数はどうなるのか」「進級や高校進学に影響は出ないのか」という点でしょう。

実は日本には、オンライン学習などを条件付きで「出席扱い」にできる仕組みがあります。一般に「ネット出席制度」と呼ばれるものです。ただし、この制度は導入から約20年が経過した現在でも、十分に活用されているとは言いがたい状況にあります。

本稿では、東京新聞の記事を起点に、沖縄の状況(沖縄県レベルで公表されている情報)と筆者の現場経験を踏まえながら、「ネット出席制度」が持つ可能性と注意点を、中学生とその保護者の皆さんに向けて整理します。

参考記事の要約

  • 不登校の小中学生がオンライン教材などで自宅学習した場合、一定の条件を満たせば、学校長の判断で「出席扱い」にできる制度が2005年からある。
  • 文部科学省の調査によると、2024年度にネット出席が認められた割合は不登校小中学生全体の約3.7%にとどまる。
  • 民間調査では、保護者の多くが学校から制度の説明・提案を受けていないという結果が示された。
  • 制度は国の通知で考え方や要件が示されている一方、現場での周知と運用が進んでいないことが課題として浮かび上がった。

出典:東京新聞
記事タイトル:不登校でもオンライン学習で「出席」になる制度、20年たっても全然使われず 学校側は利用を勧めるどころか…
URL:https://www.tokyo-np.co.jp/article/449634

※上記は参考記事本文に記載された事実関係を整理した要約です。

沖縄県における不登校の現状

沖縄県では、不登校の児童生徒が多い傾向が指摘されてきました。背景には、家庭環境、経済的事情、学力差、地域特性など、複合的な要因が絡み合います。

ここで大切なのは、沖縄県内ではすでに「学校の外での学び」を出席扱いにする運用が、一定程度行われているという点です。たとえば、フリースクールや教育支援センター(※注:学校外で学習・居場所支援を行う施設)を活用し、学校と連携した結果、出席扱いが認められるケースがあります。

ネット出席と「校外の学び」は、判断の仕組みが似ている

ネット出席制度とフリースクール等の出席扱いは、形は異なっても、判断の考え方は近い部分があります。一般に、次のような観点が重視されます。

  • 学習が計画的に実施されていること
  • 学校側が学習状況を把握できること
  • 校長が総合的に判断できるだけの材料(学習記録・面談・報告等)がそろうこと

つまり、ネット出席だけが「特別な制度」なのではなく、制度の趣旨や手順が家庭に十分伝わっていない、という構造的な課題が大きいと考えられます。

那覇市のデータが「見えない」ことの意味

那覇市単独での「ネット出席件数」について、現時点で公表された統計が確認できない場合、そこで議論を止めてしまうのは得策ではありません。

むしろ論点は、制度の運用状況が学校単位に閉じやすく、自治体として可視化(※注:数字や情報として見える形にすること)されにくい構造にあります。こうした状況では、次の問題が起きやすくなります。

  • 保護者が制度の存在を知る機会が少ない
  • 学校ごとに対応が異なり、「前例がない」で止まりやすい
  • 必要な家庭に情報が届かず、選択肢が狭まる

制度があるかどうかではなく、「必要なときに使える状態かどうか」が問われているのだと思います。

フリースクールとネット出席は何が違うのか

「ネット出席があればフリースクールに行かなくていいのでは?」という声は、現場でも耳にします。ここは丁寧に整理が必要です。

筆者の個人的な意見として述べるなら、ネット出席はフリースクールの単純な代替ではありません。大きな違いは、対面での関係性があるかどうかです。

中学生の時期は、学力だけでなく、相手の表情を読み取り、自分の考えを言葉にし、必要なら折り合いをつける力を育てる時期でもあります。社会に出たとき、対面でのコミュニケーションは避けられません。

そのため、ネット出席は「学習の最低限を守るセーフティネット(※注:困ったときの最低限の支え)」として位置づけ、対面の機会をどう補うかまで含めて考えることが重要だと思います。

現場経験から見えた「出席認定」の現実

筆者は、日本財団が支援する「第三の居場所」事業に関わり、採択された運営法人のサポートを行った経験があります。その中で、沖縄・糸満中学校の先生方と連携し、学習支援と居場所の運用を整えた結果、出席認定に至った事例がありました。

この経験から強く感じたのは、制度を知っているかどうか以上に、学校・家庭・支援者が丁寧に対話し、学習記録や生活状況を共有できるかどうかが、結果を左右するという点です。

民間企業参入への慎重な視点

ネット出席制度には、オンライン教材などを提供する民間企業が関与する場面があります。サービスの質が上がる可能性がある一方で、注意も必要です。

これは筆者の個人的な意見として述べますが、もし「ネット出席」が過度に収益源として注目されると、本来は学校に通える子どもまで「出席しなくてもいい」という方向に刺激してしまう危険があります。

セーフティネットは、広げすぎると本来守りたい人に届きにくくなることがあります。公教育に関わる制度である以上、利用条件や判断基準の整理は丁寧に行われるべきだと思います。

沖縄でこそ推進すべき理由

それでもなお、沖縄ではネット出席制度がもっと知られてよいと考えます。理由は明確です。

  • フリースクールにも通えない
  • 家庭の事情で外出が難しい
  • それでも学びを続けたい

そうした子どもにとって、ネット出席は「学習機会の最後のセーフティネット」になり得ます。「使うか使わないか」ではなく、「必要なときに適切に使える状態を整える」ことが、学校・行政の役割だと思います。

悪用を防ぐために

制度は善意だけで運用されるとは限りません。「出席扱いになるから欠席していい」という誤解が広がると、本末転倒です。

制度の目的は、子どもの学びと成長を守ること。その原点を関係者が共有し、学校・家庭・外部支援が適切な線引きのもとで活用することが重要です。

おわりに

ネット出席制度は万能ではありません。しかし、沖縄においては、学習の機会を失いかねない子どもを支える重要な制度です。

制度があるかどうかではなく、使える状態にあるかどうか。その差が、子どもの将来を左右します。沖縄県でこそ、ネット出席制度は「慎重に、しかし本気で」整備されるべきだと考えます。

執筆者情報

比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

沖縄進学塾へのお問合せはこちら

お問合せ