本記事ダイジェスト動画
参考にした動画
「東大合格者割合最下位の都道府県 沖縄県の教育格差を考える」
はじめに:この話題は「数字」だけで終わらせない
「沖縄は東大合格者が少ない」。この言葉は強く、分かりやすく、人の心に残ります。
けれど、分かりやすい言葉ほど、注意が必要です。理由は単純で、
“分かりやすさ”は、ときに現実の複雑さを切り落としてしまうからです。
私は、沖縄で子どもたちを見てきた教育者として、沖縄の課題を美化するつもりはありません。
一方で、沖縄を語るときに、沖縄の人が長年感じてきた
「外から決めつけられる感じ」も、見て見ぬふりはできません。
この記事では、中学生と保護者の方に向けて、できるだけ柔らかく、
しかし論点は曖昧にせずに整理します。
まず、動画の言いたいことを短く整理する
動画が中心に置いていた論点は、次の5点です。
- 沖縄の東大合格者は「割合」で見ると少ない
- ただし、集計の仕方で見え方が変わる(通信制高校の所在地など)
- 沖縄には一定の通塾率があり、「塾文化」が存在する
- 中学受験は加熱しやすく、高校受験は構造的に熱くなりにくい
- 専門学校・地元就職・海外(台湾など)という別ルートがある
動画は「沖縄は遅れている」と断じたいだけではなく、
「沖縄の進学は他県と構造が違う」と言いたい面もあります。
問題は、その伝え方でした。
数字の前に押さえたいこと:集計の“クセ”で結論が変わる
動画で触れられた「2025年入試で沖縄の東大合格者16人、そのうちN高が6人」という話は、
第三者メディアでも同様の整理が見られます。
また、N高等学校の本校所在地が沖縄県うるま市(伊計)であることも
学校情報として確認できます。
ここで大切なのは、「だから沖縄は問題ない」という話ではありません。
問題があるなら、正しく測らなければ改善できない、という点です。
通信制高校のように「所在地」で集計されるケースでは、
沖縄の実態を見たいはずが、集計ルールを見てしまうことがあります。
この点は、冷静に整理される必要があります。
違和感の中心は、「内容」より「ことば」にある
「異世界」「わけわかんない」という表現について
沖縄の進学構造が他県と違うこと自体は、事実として語って構いません。
しかし「異世界」「わけわかんない」という言葉は、
受け手に次のような印象を与えやすくなります。
- 普通ではない
- 遅れている
- 理解する価値がない
本当に必要なのは、強い言葉ではなく、精密な言葉です。
「独自の教育の仕組み」「進学構造が他県と異なる」で十分に伝わります。
「琉球大学は国立で一番偏差値が低い」という発言について
偏差値は、予備校や方式、学部によって大きく変わります。
琉球大学にも医学部があり、学部差を無視して
「大学全体」を一括りにして最下位と断定するのは不適切です。
また、琉球大学は地域医療、環境、島嶼研究などを担う
地域拠点型の国立大学です。
東京大学や京都大学と同じ物差しだけで評価すると、
大学の役割そのものを見誤ります。
「沖縄の人は東大の次が琉球大」という冗談について
本人は「ネットのギャグ」と言っていますが、
冗談は「誰が笑うか」で意味が変わります。
この言い方は、「地方の進学観は視野が狭い」という
ステレオタイプを強めかねません。
地元で生きる現実を踏まえた進路選択は、
妥協ではなく合理的な判断である場合も多いのです。
一番根にある論点:「成功の定義」が東京に固定されていないか
動画には「才能があるのに東大に行けないのはもったいない」
という趣旨の発言が出てきます。
その気持ちは理解できます。
しかし同時に、
成功=東大=中央
という価値観が前提になっていないかは、点検が必要です。
沖縄には、沖縄の成功ルートがあります。
地元医療、観光、環境、農業、専門職、アジア志向。
それらは「才能が埋もれた結果」ではなく、
地域の現実に即した選択です。
家庭でできること:正解探しより「整える」
偏差値は人の価値ではなく、環境の目安
私は偏差値を「学習環境の質を測る目安」と定義しています。
偏差値が高い・低いは、人間の価値ではありません。
挑戦は根性ではなく設計で支える
週の学習時間、復習の仕方、生活リズム、スマホとの付き合い方。
こうした土台を整えるだけで、結果は変わります。
教育格差は、才能より「整える力」の差で広がりやすいのです。
進路は「幸せを作る」ための手段
教育とは、幸せを作るためのものです。
収入や学歴だけで幸せは決まりません。
だからこそ、「どの学校が上か」ではなく、
「どう生きたいか」を軸に進路を考えてほしいと思います。
実例が教えてくれる、「正解は一つじゃない」という事実
高校進学が厳しい状態からスタートし、
本人の目標に合った環境を選び、全国大会で結果を出した子。
一方で、医師を目指し、難関コースに進み、
模試で上位を取り、次の受験に挑む子もいます。
どちらも正しい。
大切なのは、「その子の物語が前に進むこと」です。
終わりに:沖縄の子どもたちへ、保護者の方へ
「沖縄は東大が少ない」という言葉が一人歩きすると、
沖縄の子どもたちは、努力とは無関係に
低く見積もられる空気の中で育ってしまいます。
学力は大切です。
学力は、人生の選択肢を増やします。
だから私は、塾をやり、難関校を目指す道も本気で支えています。
ただし、学力を語るときに忘れてはいけないのは、
「誰かを下に置いて、自分を上げない」ことです。
保護者の方へ。
進路の話を、勝ち負けにしないでください。
「どんな道でも、自分の足で立てるように整えよう」。
その空気が、子どもの背中を押します。
中学生のみなさんへ。
あなたの未来は、偏差値だけで決まりません。
でも、学ぶことは必ずあなたを助けます。
沖縄を語る大人たちへ。
沖縄を「異世界」として消費しないでください。
言葉を整え、構造を理解し、
子どもの選択肢を増やす議論をしていきましょう。
執筆者情報
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。
講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、
ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、
自社7社・間接経営補助10社を展開。
「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、
地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。









この記事へのコメントはありません。