中学受験は“環境選び”のひとつ。でも、その前に家族で話しておきたいこと。

動画ダイジェスト

1.まず、参考記事3本の要約とリンク

(1)【参考記事1】「中学受験は健全か。」

中学受験の良い面ばかりが語られやすい今、「本当にこれでいいのか?」と問題提起するページです。
短い文章のなかに、

  • 小学校の思い出を犠牲にする悔しさ
  • 友達すら敵になってしまう、いきすぎた競争
  • 親子の物差しが「数字」になる悲しさ
  • 12歳で味わう大きな挫折
  • 「将来のため」と言われ、「今の自分」をわかってもらえない寂しさ

といったキーワードが並びます。
親も子も悪くないのに、「構造的(しくみのレベルで)に問題を抱えた受験システム」がすれ違いを生んでいるのではないか――という問いを投げかけ、今後、調査レポートや有識者との「議論」を通じて、より健全な受験の形を探っていくと宣言しています。

参考リンク:
https://sprix-chu-ju.jp/?s=09

(2)【参考記事2】「中学受験のホンネ調査レポート」(PDF)

SPRIXが行った大規模なアンケートとインタビューをまとめたレポートです。

内容の柱は、

  • 首都圏における中学受験者数の増加
  • 6年生の勉強時間・通塾日数の実態
  • 親子が感じたストレスや後悔
  • 「友だちが敵になる」「家族が受験一色になる」といったエピソード
  • 受験を経験した親子のインタビュー

などです。
数値データと生の声から、「中学受験には価値もあるが、心にトゲが残る場面も多い」という現実を描き出しています。

参考リンク(SPRIX公式サイト内「中学受験のホンネ調査」より):
※ユーザー提供PDF:sil.pdf

(3)【参考記事3】「過熱する中学受験。青木裕子さんと考える『子どものための適度な学習』とは?」

フリーアナウンサー・青木裕子さんと、SPRIX代表・常石さんの対談です。内容は6つのテーマで整理されています。

  1. 過熱する中学受験熱。早まる準備
    首都圏では中学受験者が過去40年で3番目に多い水準。クラスの8〜9割が中学受験をする地域もあり、「受けるのが普通」という空気が生まれていることが紹介されています。
  2. 長すぎる勉強習慣が犠牲にするもの
    小6の平均通塾は週4.5日、平日3.6時間・休日5.7時間勉強しているというデータが示されています。これは「立派な勉強習慣」とも言える一方で、「小学生がここまでやるのはおかしい」という見方もできます。
    遊び・ゲーム・TVだけでなく、長く続けてきた習い事もやめてしまう子が多いことも指摘されています。
  3. 子どもを苦しめる、「上へ、上へ」という圧力
    「もっと上の学校を」「せっかくやるなら上を」という空気の中で、子どもに合わないレベルまで頑張らせてしまう危険性について議論しています。
  4. 将来のための勉強が、今のプレッシャーに
    親は「将来のため」と思って負荷をかける一方で、子どもは「そもそもやりたくない」と感じる瞬間もある。そのギャップがストレスになることが語られています。
  5. 愛されて育つことが、学びの基礎
    「何を学ぶか」以前に、「自分は愛されている」「認められている」という実感が、学びへの前向きさの土台になるという指摘がなされます。
  6. 正解のある学びと、正解のない学び
    テストのように「正解のある学び」と、探究学習や体験のように「正解がひとつではない学び」が、子どもたちの中で二重構造になっている現状が語られています。

参考リンク:
https://sprix-chu-ju.jp/article/01/

2.首都圏で「受けない方が少数派」になりつつある現実

参考記事3本を並べてみると、共通しているメッセージがあります。

中学受験は、「やるか・やらないか」ではなく、「どういう前提で・どこまでやるか」が問われる段階に来ている。

首都圏の一部の地域では、クラスの8〜9割が中学受験をするという証言も紹介されています。
この環境では、「受けない」という選択のほうが、むしろ説明が必要になるほどです。

さらに、SPRIXのホンネ調査によれば、

  • 中学受験経験者の6割強が小3までに受験を意識し、
  • 小6では平均して週4.5日塾に通い、平日3.6時間・休日5.7時間勉強している

という実態が示されています。

これは、単なる「がんばり」ではなく、生活全体の組み替えです。
この時間を捻出するために、「遊び」「ゲーム」「テレビ・YouTube」だけでなく、長く続けてきた習い事をやめざるを得なかった子どもも多いことが、同じ調査で示されています。

ここまで来ると、もはや中学受験は「個人の努力」ではなく、社会的な現象と言ってよいでしょう。

3.受験そのものが悪いわけではない。でも“構造”に問題がある

一方で、SPRIXのレポートも対談記事も、

  • 中学受験を経験できてよかった
  • 集中して取り組む経験が、子どもを成長させる

といったポジティブな側面もきちんと紹介しています。

つまり、「中学受験=悪」ではありません。問題は、受験そのものではなく、

  • いつから
  • どのくらい
  • 何を犠牲にして
  • 誰の価値観で

走り出してしまうのか、という構造(しくみと空気)のほうにあります。

特に、参考記事1が指摘するように、

親は子のために。
子は親のために。
そう思い合うからこそ、すれ違ってしまう。

ここに、中学受験の難しさが集約されています。
誰も悪くないからこそ、立ち止まって「本当にこれでいい?」と問い直す場所が必要です。

4.沖縄から見える「距離感」と、これから高まるかもしれない熱

ここからは、個人的な意見としては、沖縄で塾を運営し、長年高校受験・中学受験を見てきた立場からの視点も交えて書きます。

首都圏と比べると、沖縄県内では、まだ首都圏ほどの「中学受験熱」はありません。
私立中学校の数も限られており、「とりあえず中学受験」という空気は決して強くありません。むしろ長いあいだ、

  • 「私立より公立が上」
  • 「私立に行くのは、どこか恥ずかしい」

という、根拠があいまいな同調圧力のようなものすら存在していました。

私自身、神奈川で当たり前だった「公立+私立併願」というスタイルを沖縄で提案したとき、保護者の方から露骨に嫌な顔をされた経験があります。これはあくまで現場での実感ですが、情報不足と価値観の固定化が混ざった雰囲気だったと感じています。

ところが、私立高校の先生方を招いて説明会を行い、「学費」「進学実績」「学校生活」などを丁寧に伝えていくと、少しずつ受け止め方が変わっていきました。
結果として、

  • 公立一本ではなく、私立との併願を前向きに検討するご家庭
  • 沖縄尚学などの中高一貫校を、将来を見据えた選択肢として考えるご家庭

が増えてきたと感じています。

これはデータというより、教室現場での実感ですが、「受験=悪」から、「受験=環境を選ぶための手段」へと考え方が変わってきているサインだと受け止めています。

5.「どの受験を選ぶか」ではなく、「どんな環境を選ぶか」

中学受験・高校受験をめぐる議論では、よく

  • 「やっぱり中高一貫が有利だ」
  • 「いや、公立高校で十分だ」

という“どちらが正しいか”の話になりがちです。

しかし、個人的な意見としては、本当に大事なのは「どの時点でどの環境に身を置くか」です。

たとえば野球なら、

本気で甲子園を目指すなら、
甲子園常連校という“環境”に身を置く方が、機会は増えます。

同じように、

  • 旧帝大レベルや、全国区の難関大学を目指す
  • 東京の難関私大で専門を深めたい

という明確な目標があるなら、中高一貫校という環境を早めに選ぶメリットはたしかにあります。

一方で、

  • 琉球大学をはじめとする国立大学(偏差値50前後)
  • 地方公務員や地元企業で堅実に働きたい

といった将来像であれば、高校受験でしっかり公立進学校を目指すルートでも十分に戦えます。
これは「どちらが偉い・劣る」という話ではなく、必要な準備の量とタイミングの違いだと考えています。

6.「上へ、上へ」の空気から、一度離れて考えてみる

参考記事3で話題になっていたように、中学受験の世界にはどうしても、

「せっかくやるなら、もっと上を」

という空気があります。
この空気自体は、向上心とも言えます。しかし、子どもの成長段階や性格によっては、

  • 勉強が「自分のため」ではなく、「比較に勝つため」になってしまう
  • 友だちがライバルを通り越して「敵」に見えてしまう
  • 「いくらやっても足りない」感覚に追い込まれてしまう

こうした危険もあります。

だからこそ、受験を考えるご家庭には、次の3つをおすすめしたいと思っています(ここも、あくまで個人的な提案です)。

  1. 「何になってほしいか」より、「どんな大人になってほしいか」を言葉にする
    「有名大学に行ってほしい」ではなく、
    「人の話を聞ける人に」「地元で誰かを支えられる大人に」など、姿で考えてみる。
  2. 家族で「どこまでを上限にするか」を決めておく
    平日4時間以上はやらない、22時以降は勉強しない、習い事は1つは残す――など、あらかじめラインを決めておくと、「いつの間にか生活が受験一色になっていた」という事態を防ぎやすくなります。
  3. 子どもが「今の気持ち」を話せる時間を確保する
    将来のための話だけでなく、
    「今日はここがしんどかった」「本当は部活も続けたい」
    といった“今のわたし”の気持ちを、安心して話せる時間を意識的につくることが大切です。

7.「愛されている実感」が、どの受験にも共通する土台

対談記事で印象的だったのは、常石さんの、

「何をするか以前に、ちゃんと愛されてきたという経験が、その後の学びに一番影響する」

という言葉です。

テストで測れる「正解のある学び」は、どの受験にも必要です。
一方で、家庭での体験、読書、自然や地域との関わりといった「正解がひとつではない学び」も、子どもの興味や生きる感覚を育てます。

沖縄には、

  • 海や自然に触れる体験
  • 祖父母や地域の人とのつながり
  • 伝統行事や方言文化

など、教科書には載らない学びがたくさんあります。
中学受験・高校受験を考えるときも、「テストの点数」と同じくらい、

「この子は、自分は愛されていると感じているか」
「この子は、自分の居場所をいくつか持てているか」

という視点を忘れないことが、長い目で見たときの学力と幸せの両方を支えるのではないでしょうか。

8.沖縄から「落ち着いて考えるための情報」を届けたい

首都圏では、中学受験について多くの本や記事、SNSアカウントがあり、情報はあふれています。
一方で、沖縄では、

  • 中学受験の情報
  • 私立・公立の選び方
  • 中高一貫校と高校受験の違い

について、落ち着いて比較・検討できる情報源は、まだ多くありません。

だからこそ、沖縄の中学受験・高校受験に詳しい人間が、地元目線で情報と考え方を発信する意味があると感じています。
受験をあおるのではなく、むしろ、

「本当にこの受験が、うちの子に合っているのか」
「どんな環境なら、この子は伸び伸び学べそうか」

を一緒に考えるための材料を届ける。

その積み重ねが、結果として
「沖縄の中学受験・高校受験といえば、この人に聞いてみよう」と、メディアや保護者の方に思っていただけるような存在につながればうれしい――そんな気持ちで日々情報発信を続けています。

9.おわりに:受験はゴールではなく、“環境選びの通過点”

中学受験も、高校受験も、どちらも子どもにとって大きなイベントです。

  • 早くから受験に挑戦することで得られるもの
  • その裏で失われるかもしれないもの
  • あえて高校受験まで待つことで守れる時間や体験

それぞれに長所と短所があります。

大事なのは、

「みんながやっているから」ではなく、
「この子の将来像と、今の成長ペース」に合わせて、家族で選び取ること。

そのための材料として、今回の3つの参考記事やホンネ調査レポートは、とても有用だと感じます。
これからも、沖縄から落ち着いた議論と現場の声を発信しながら、親子が「やってよかった」と思える受験の形を、一緒に探していければと思います。

執筆者情報
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

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