不登校増加と内申書の「出欠席日数欄廃止」19都府県~公平な評価制度をどう設計すべきか~

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この記事では、朝日新聞の全国調査をきっかけに、「高校入試の内申書から出欠席日数欄をなくす動き」と、その背景にある考え方について整理します。対象は中学生とその保護者の方です。できるだけやさしい言葉で説明しますので、受験情報の整理にお役立てください。


参考記事の要約

2024年6〜7月に、朝日新聞が全国47都道府県の教育委員会にアンケートを行いました。

その結果、公立高校入試に使う調査書(内申書)の「出欠席日数欄」を、2027年度入試までに19都府県が廃止することが分かりました。理由としては、次のような点があげられています。

  • 不登校の生徒が増えており、出席日数だけで不利に扱われてしまう心配があること
  • 出欠欄があることで、「合否に影響してしまうのでは」と不安を感じる保護者が多いこと
  • 国が「出席日数のみで不利に扱わないように」と通知を出していること

一方で、不登校生の評定(5段階評価)をどうつけるかについては、地域や学校によって対応が異なり、「校長の判断」としているところがもっとも多いことも分かりました。専門家は、「子ども一人ひとりの状況に応じた評価が必要」と指摘しています。

出欠欄を廃止する19都府県は次のとおりです。

  • 2020年度以前に廃止:東京、神奈川、大阪、奈良
  • 2023年度:宮城、愛知、滋賀
  • 2025年度:新潟、兵庫
  • 2026年度(予定):青森、岩手、山形、長野、京都
  • 2027年度(予定):福島、茨城、埼玉、石川

詳しい内容は、下記の朝日新聞の記事も参考になります(有料会員向けページを含みます)。


1.出欠席日数欄を廃止するねらい

まず、なぜ出欠席日数欄をなくす方向になっているのかを整理します。大きく3つの理由があると考えられます。

  • (1) 不登校の増加への対応
    文部科学省の調査では、ここ数年、不登校の中学生は増え続けています。いじめや人間関係の悩み、発達特性(※生まれつきの特性)、家庭の事情など、理由はさまざまです。
    出席日数だけで評価すると、こうした事情を抱えた生徒が不利になりやすくなってしまいます。
  • (2) 「出欠が合否に響くのでは」という不安を減らす
    出欠欄があるだけで、「たくさん休んだら、高校に落ちてしまうのでは?」と不安に感じる保護者・生徒は多いです。
    欄そのものをなくすことで、「出席日数だけで合否が決まるわけではない」というメッセージをはっきり示すねらいがあります。
  • (3) 国の方針との整合性
    国はすでに、「出席日数のみを理由に不利に扱わないように」と各都道府県へ通知しています。出欠欄の廃止は、この方針をさらに徹底する動きだと考えられます。

このように見ると、今回の変更は「不登校の子どもの受験の機会を守る」という点では、前向きな動きといえます。


2.真面目に通学している生徒の努力はどう評価されるべきか

一方で、別の角度からの疑問も生まれます。よく保護者の方から次のような声を聞きます。

「毎日しっかり学校に通っている子の努力は、どう評価されるのですか?」

たしかに、出席日数は次のような力とも結びついています。

  • 生活リズムを整える力
  • 体調を自分で管理する力
  • 時間を守る力
  • 集団の中で協力して行動する力

これらは、高校に進学したあと、そして将来社会に出たときにも大切な力です。
そのため、出欠欄廃止の方向性はよいとしても、「真面目に通ってきたこと」をまったく評価しないのは、バランスを欠くという考え方も成り立ちます。

ここで大切なのは、

  • 不登校の子を守ること
  • コツコツ通学してきた子の努力を正当に評価すること

この2つを「どちらか一方」ではなく、「両方とも大事にする」という視点です。


3.制度が変わるタイミングにいる中学生への配慮

制度変更には、必ず「過渡期(かとき)※途中の期間」が生まれます。たとえば、

  • 一つ上の先輩とは内申の扱いが違う
  • 自分の学年から急にルールが変わる

といった状況です。

制度そのものは良い方向に進んでいても、ちょうどそのタイミングにいる子どもたちは、不安や「損をした感覚」を持ちやすくなります。

学校や塾、保護者が協力して、

  • なぜ制度が変わるのか
  • あなたの努力は、別の形できちんと評価されること

を丁寧に説明していくことが大切だと考えています。


4.高校側の立場から見る出欠情報の意味

次に、「高校側の視点」から考えてみましょう。

これまで出欠欄は、高校にとって次のような情報源でもありました。

  • 日常的に学校生活を送ることができているか
  • 授業のペースについていけそうか
  • 高校に入ってからも継続して通えそうか

高校は、入学後の3年間の学びを保証する責任を負っています。その意味で、「出席の状況」は、本来は大切な情報です。

出欠欄をなくすということは、

  • 入試段階での「不登校に対する配慮」を強める一方で、
  • 入学後の支援体制(心のケア、学習フォローなど)を充実させる必要が高まる

ということでもあります。

つまり、「出欠を見ない」ことではなく、「出欠だけで判断しない」体制づくりが重要だといえます。


5.二つの評価軸を併存させるという考え方(筆者の提案)

ここからは、筆者である私・比嘉 大の個人的な考えです。

不登校の子への配慮と、通学を続けてきた子の努力を両立させるためには、評価の軸を一つにしないことが有効だと考えています。たとえば、次のようなイメージです。

  • A軸:学校生活を中心に評価する枠(例:合否の70%)
    授業態度、提出物、学校行事への参加などを総合的に評価します。日常をコツコツ積み重ねてきた生徒の努力を正しく評価できます。
  • B軸:学力検査を重視する枠(例:合否の100%を学力で判断)
    不登校や病気など、さまざまな事情で学校生活での評価が難しい生徒に対して、学力テストの点数だけで勝負できるようにする枠です。

これはあくまで一つの案ですが、「一本のものさしではなく、複数の評価方法を用意する」ことで、より多くの子どもを救えると考えています。

実際に、国立高専などでは「学力点だけで合否を決める枠」を設けている学校もあります(※学校によって制度は異なります)。こうした例も参考にしながら、高校入試の仕組みを工夫していく余地は大きいと感じます。


6.内申点の付け方そのものの見直し

出欠欄の問題とあわせて考えたいのが、内申点の付け方そのものです。内申点は、

  • 定期テスト・小テスト
  • 提出物
  • 授業態度
  • 生活面の記録

などをもとに決まりますが、どうしても先生の裁量(さいりょう)=判断の自由度が大きくなりがちです。

先生方は多忙な中で丁寧に評価してくださっていますが、

  • 評価基準が学校や先生によって分かりにくい
  • 同じ点数でも先生によって評定が違うように見える

といった声もあります。

そのため、次のような改善が考えられます。

  • 評価項目や比率を、保護者・生徒にも分かる形で公表する
  • テスト問題の難易度や平均点などを公開し、透明性を高める
  • 学校間で、内申点の付け方の「大枠」をそろえる

これらはすぐに実現できるとは限りませんが、「評価はできるだけ公平で、分かりやすいものであってほしい」という方向性は、多くの保護者・子どもたちが望んでいるところだと思います。


7.弱者への配慮と努力する子の公平性をどう両立させるか

最後に、大きな視点からまとめます。

社会全体として、弱い立場にある人を支えることはとても大切です。不登校の子どもや、背景に事情を抱えた家庭への配慮は、国の豊かさを示すものでもあります。

しかし同時に、「毎日コツコツ努力してきた子どもたちの気持ち」も大切にしなければなりません。真面目に取り組んできた生徒が、「自分は評価されていない」と感じてしまう状況が広がると、社会全体の活力が落ちてしまうおそれもあります。

大事なのは、

  • 不登校の子どもを守る仕組みを整えること
  • 努力してきた子どものモチベーションを尊重すること

この両方を同時に満たす制度を、少しずつ作っていくことだと考えています。

高校入試の制度は、一度決めたら終わりではありません。社会の変化や子どもたちの状況を見ながら、何度も見直していく必要があります。今回の「出欠席日数欄廃止」の動きも、その長いプロセスの一部だと言えるでしょう。


まとめ──これからの高校入試と向き合うために

この記事では、

  • 出欠席日数欄廃止のねらい
  • 真面目に通学している生徒の努力の扱い
  • 高校側の視点と入学後のフォロー
  • 二つの評価軸を併存させるという考え方
  • 内申点の付け方そのものへの課題

などを整理しました。

保護者の方にお伝えしたいのは、

  • 制度は毎年少しずつ変化していること
  • 不安なときは、学校や塾、自治体の情報をよく確認すること
  • 「うちの子はどういう評価軸が合うのか?」を一緒に考えること

です。

そして中学生のみなさんには、

  • 出欠欄があってもなくても、「今の自分にできるベストを積み重ねること」がいちばん大事
  • 困ったときには、一人で抱えこまずに、大人に相談してほしい

ということを伝えたいと思っています。

沖縄から、そして地方から、こうした教育制度の課題や改善案を発信していくことが、私にできる小さな役割だと感じています。


執筆者情報

比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

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