タイトル:日本の大学が変わる日 ― 「研究で生きる」未来と、沖縄の子どもたちにできること


「勉強しても意味あるの?」
そんな言葉を、保護者や子どもたちから耳にすることがあります。
けれど今、日本の大学は静かに、しかし確実に“変わろう”としています。
その中心にあるのが、政府が進める「グローバル卓越人材招へい研究大学強化事業(EXPERT-J)」と「世界トップレベル大学院教育拠点」という2つのプロジェクトです。

これは一言で言えば、「研究で生きていける社会をつくるための国家プロジェクト」です。
この記事ではその概要と意義、そして沖縄の子どもたちにとっての未来へのヒントをお伝えします。

1.「グローバル卓越人材招へい研究大学」とは?

科学技術振興機構(JST)は2025年9月30日、海外で活躍する優秀な若手研究者を日本の大学に招く取り組みとして、「グローバル卓越人材招へい研究大学強化事業(EXPERT-J)」の採択大学を発表しました。

この制度は、内閣府が進める「J-RISE Initiative」の一環であり、大学ファンド(国が運用する基金)の運用益を使って、若手研究者の待遇・研究環境を世界水準に近づけることを目的としています。

採択大学 構想の題目
沖縄科学技術大学院大学(OIST) RISE@OIST – 卓越研究者の統合支援
京都大学 大学改革による知の循環共創拠点形成
東京大学 Excellence Program for Engaging Research Talent into UTokyo-GRI
名古屋大学 NU Nexus グローバル頭脳循環研究強化事業
九州大学 次世代グローバルトップスター発掘・育成スキーム
北海道大学 半導体・ライフサイエンス分野での頭脳循環エコシステム構築
筑波大学 国際頭脳循環拠点形成
神戸大学 卓越テニュアトラック制度による若手研究者育成
東京科学大学 海外若手研究者招へいと研究力向上戦略
金沢大学 知の還流が牽引する融合研究拠点形成
広島大学 「新しい平和科学」研究拠点の構築

※出典:JST公式発表PDF

この取り組みは2025年10月から3年間、集中的に行われます。特に沖縄科学技術大学院大学(OIST)が選ばれたことは、「沖縄発の国際研究拠点」が現実になりつつあることを意味しています。

2.「世界トップレベル大学院教育拠点」とは?

文部科学省が同時期に進めているのが「世界トップレベル大学院教育拠点」です。これは、博士課程(Ph.D.)の学生を国際的に活躍できる人材へ育てる仕組みです。

採択大学 概要リンク
新潟大学 概要PDF
金沢大学 概要PDF
名古屋大学 概要PDF
広島大学 概要PDF
電気通信大学 概要PDF
一橋大学 概要PDF

この拠点は、「産学連携(企業と大学の協働)」と「国際共同教育」を軸にしています。つまり、“研究室で閉じこもる博士”から“社会とつながる博士”へ。研究の成果を社会や産業界で活かす人材育成を目指しています。

3.「研究で生きる社会」をつくるための挑戦

私は塾経営者として日々、生徒たちに「なぜ勉強するのか?」と問われます。
答えの一つは、「自分の好きなことを仕事にできる可能性を広げるため」だと伝えています。

この政策の本質も、まさにそこにあります。
研究者が生活を心配せずに研究できる。博士課程の学生が「研究=仕事」だと胸を張れる。
それが社会全体の発展につながる――そんな国を目指しているのです。

たとえば、iPS細胞の山中伸弥教授や、免疫学でノーベル賞を受賞した坂口志文氏のように、世界で活躍する日本人研究者を支える仕組みが強化されれば、「研究が国の力」となります。

4.政策の明暗 ― メリットと課題

◎メリット

  • 海外大学との連携が進み、日本にいながら世界レベルの教育が受けられる。
  • 博士課程への給付金や給与支援が増え、研究専念が可能に。
  • 企業・自治体との協働で、研究者のキャリアパスが拡大。

▲懸念点

  • 選ばれた大学とそうでない大学の格差拡大
  • 英語論文・国際会議対応などで負担増
  • 「短期成果型」研究への偏りで人文・社会系軽視の恐れ。

つまり、このプロジェクトは「挑戦する大学を伸ばす」ものであり、裏を返せば「挑戦しない大学は取り残される」仕組みでもあります。

5.沖縄の子どもたちへ ― これからの学び方

今回、沖縄科学技術大学院大学(OIST)が選ばれたことは大きな意味を持ちます。
それは、「沖縄からでも世界とつながる学びができる」時代の到来です。

①「英語」は“点数”ではなく“対話の道具”に
これからの学びでは、英語は「話す・伝える・考える」ためのツールになります。
OISTのように講義のすべてが英語で行われる大学も増えています。

②「研究する=職業になる」時代
AI、医療、宇宙、環境、データなど、研究がそのまま仕事につながる時代です。
「博士=安定しない」という時代は終わりつつあります。

③「問いをつくる力」が大切に
卓越研究大学に選ばれるような大学では、「なぜ?」「どうして?」を考える力が最も重視されます。
覚えるより、“考える”ことが評価される時代です。

④ 学費や経済的なハードルは下がる方向へ
国の支援により給付型奨学金や給与型の支援が増え、「お金が理由で進学を諦める」壁は低くなっています。

⑤「地域×世界」を意識しよう
沖縄は「海洋」「平和」「観光」「多文化共生」など、世界と直結するテーマを持っています。
地域を大切にしながら世界に貢献する――そんな未来を描いてほしいと思います。

6.まとめ ― 「研究で生きる」社会へ

今回の2つの政策は、日本の教育が「知識を詰め込む時代」から「知を創り出す時代」へ進む大きな一歩です。

これが実現すれば、研究者が尊敬され、研究で生活できる社会が広がります。
その先には、子どもたちが「自分の好奇心で社会を変える」未来が待っています。

偏差値よりも、「なぜそう思うのか?」を考える力こそ、これからの時代に最も必要な資質。
沖縄の子どもたちが、この新しい学びの波をチャンスに変えていけるよう願っています。

執筆者プロフィール
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞(泡盛新聞)などを展開。25歳で起業して以来、自社7社運営・関連支援10社を手掛ける起業家でもある。教育政策や地域学力格差の課題について、データと現場分析の両面から論考を発信している。

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