教員不足と“ペーパーティーチャー”の現在地~資格と指導力の境界を問い直す時代へ~

本記事の要約

近年、小学校を中心に教員不足が全国的な課題となっています。産休・育休の増加や定年退職、採用倍率低下などが重なり、臨時教員すら確保できず、教頭が担任を兼任するケースも見られます。こうした状況への対策として、教員免許を持ちながら教職に就いていない「ペーパーティーチャー」の活用が広がっています。しかし免許の有無は指導力と必ずしも一致せず、一方で無資格者の全面受け入れは教育の質を損なう恐れもあります。大切なのは制度を壊さずに人材の入口を広げる仕組みづくりです。社会には教える力を持つ大人が多くおり、制度の柔軟化により教育はより持続可能になると考えられます。

参考記事の要約

AERA dot のこの記事では、近年深刻化している教員不足の中で、
教員免許を持ちながら教職に就いていない人たち、いわゆる「ペーパーティーチャー」に注目し、
その活用が進んでいる現状が紹介されています。

ペーパーティーチャーとは、教員免許を取得しているものの、
これまで一度も教員として働いたことがない人や、
かつて教員として勤務したものの現在は教職を離れている人たちのことです。
記事では特に埼玉県の取り組みが詳しく紹介されており、
自治体が説明会や研修会、模擬授業などを通して、
眠っていた免許保持者を教育現場に呼び戻そうとしている様子が描かれています。

セミナーには40〜60代の社会人・講師経験者などが参加し、
タブレット端末を活用した「今の授業」の体験や、
日本語を母語としない児童・生徒への指導の様子など、
現在の学校現場の実情に触れるプログラムが用意されています。
臨時教員には年齢制限がなく、70代の元教員が活躍している例も報告されていました。

背景には、産休・育休の取得増加、ベビーブーム世代の教員の定年退職、小学校教員採用倍率の低下など、
複数の要因が重なり、臨時教員のなり手が減少していることがあります。
文部科学省のデータでは、小学校教員採用倍率は2000年度には12.5倍でしたが、
近年は2倍前後まで低下しており、採用者数は大幅に増えている一方で、
欠員補充にあてる臨時教員の確保が難しくなっているとされています。

記事によると、全国68の教育委員会のうち、
ペーパーティーチャー向け研修などを実施しているのは、
2023年度で50教委、2024年度には約7割に増加すると見込まれています。
埼玉県ではセミナー開始当初から参加者・登録者・任用者を順調に増やしてきましたが、
2025年度には参加者が伸び悩み、「掘りつくした」可能性も指摘されています。

一方で、約20年ぶりに教壇に立った教員の事例も紹介されていました。
小学校音楽専科として任用された40代の女性教員は、
着任前に研修や模擬授業を通して準備し、
着任後も周囲のサポートを受けながら授業に臨んだといいます。
子どもたちへの穏やかで丁寧な接し方には安心感があり、
校長からも「児童の気持ちに寄り添う姿勢が、現場の人手不足を支えている」と高く評価されていました。

(参考リンク)

教員不足の現場を救う“ペーパーティーチャー”とは


1.教員不足はもはや全国的な課題

近年、教員不足は一部の自治体に限られた問題ではなく、全国的な課題になっています。
文部科学省の「学校基本調査」などでも、小学校・中学校ともに
「欠員の補充が難しい」という報告が出ており、
現場レベルでは「産休代替が見つからない」「教頭が担任を兼任する」といった事態も起きています。

特に小学校では、教員採用試験の倍率低下が顕著です。
文科省が公表している「教員採用選考試験実施状況」によれば、
2000年度に12.5倍だった小学校教員採用倍率は、
近年では2倍前後まで低下しています。
採用者数自体は増えているものの、それに伴い
「臨時教員として働きながら正規採用を待つ層」が減り、
欠員補充にあてる人材のプールが小さくなっているのです。

つまり、正規採用を増やした結果として、
臨時教員や代替教員を確保しづらくなるという「副作用」が生じている側面もあると言えます。

2.ペーパーティーチャーは“短期的には理にかなう解”

こうした状況の中で、ペーパーティーチャーの活用は、
短期的にはもっとも理にかなった打ち手の一つです。
教員免許を持っているため、
学校の教員配置基準を満たしやすく、
制度上の整合性も高い施策です。
自治体としても導入しやすく、
現場の「今すぐ人手が欲しい」というニーズに応えやすい側面があります。

AERA dot の記事で紹介されていた埼玉県の例では、
ペーパーティーチャー向けに説明会・研修・模擬授業を体系的に用意し、
不安を減らしながら現場復帰を後押ししていました。
こうした取り組みは、現行制度の中でできる「最大限の工夫」の一つとして評価できるでしょう。

3.しかし「免許=指導力」ではない

とはいえ、ここで忘れてはいけない論点があります。
それは、「教員免許を持っていること」と「高い指導力を持っていること」は、
必ずしも同じではないという点です。

教員免許制度は、本来「一定以上の専門性や知識を持っていること」を確認する仕組みです。
しかし、免許を取得した時点から時間が経てば、
教育現場や子どもたちを取り巻く環境は変化します。
また、免許を持っていても、子どもへの接し方・説明のわかりやすさ・クラス運営など、
実践的な指導力は人によって大きく差があります。

一方で、免許を持たない「無資格」の大人の中にも、
非常に高い指導力を持つ人材が多数存在します。
学習塾の講師、スポーツクラブのコーチ、企業の研修担当者、
放課後児童デイサービスのスタッフなど、学校の外にも「教える力」を持った大人は大勢います。

私自身、学習塾を運営する立場として、
60代・70代の社会人経験豊富な大人が、
中高生と自然に信頼関係を築き、
学習だけでなく生き方のヒントまで丁寧に伝えている姿を何度も見てきました。
しかし制度上、こうした人材がそのまま学校現場に入ることは難しいのが現状です。

4.「資格不要でいい」は、もう一つの危険

とはいえ、「それなら資格なんていらないのでは」と考えるのも危険です。
学校教育は公共の制度として、国が一定の水準を保証しなければなりません。
誰でも自由に教壇に立てるようにしてしまうと、
教育の質がばらつき、子どもたちにとっての不利益が大きくなる可能性があります。

つまり、「資格がある人だけで回す」のも行き詰まり、
「資格はいらない」と全てを開放するのも危うい。
この二つの極端な選択肢の間で、教育制度は悩んでいるのです。

5.問題の本質は“制度の硬直性”にある

ここで浮かび上がってくるのは、人材そのものの不足だけではなく、
「制度の側が人材を受け止めきれていない」という構造的な問題です。

資格制度が硬直しているために、
指導力のある人材が制度の外側に滞留し、
制度の内側は慢性的な人手不足に苦しむ。
これが、今の日本の教育が抱える「もう一つの教員不足」と言えるかもしれません。

資格制度を守ることは大切です。
しかし、「資格さえあればよい」と制度が思考停止してしまうと、
人材プールは次第に痩せ細り、
結果として子どもたちの学びの環境が損なわれてしまいます。

6.労働人口減少時代に、教育制度はどう変わるべきか

総務省の人口推計を見ると、
日本の生産年齢人口(15〜64歳)は今後も長期的に減少すると見込まれています。
つまり「教員だけを増やす」という発想では限界があり、
そもそも働き手全体が減っていく時代に入っているのです。

医療、保育、教育のように人の力に大きく依存する分野では、
人材不足は今後さらに深刻化していくことが予想されます。
資格制度が硬く閉じているほど、
その内側で人材は枯渇していくでしょう。

この前提に立つと、
「資格の枠を緩めて誰でもOKにする」か、
「枠を守りながら柔軟な入口を増やす」かという選択が迫られます。
筆者は後者、つまり「制度を守りながら柔軟性を高める方向」が現実的だと考えています。

7.教職の“ブランド低下”というもう一つの問題

教員不足の背景には、教職の「ブランド低下」もあります。
教員という仕事は、今もなおやりがいの大きい職業です。
しかし、授業準備だけでなく、保護者対応、行事運営、事務作業、
ICTへの対応、生徒指導などが重なり、業務量は増える一方です。

こうした状況の中で、
「子どもが好きだから」「教育に関わりたいから」と教員を志す若者が、
以前ほど多くなくなっているという指摘もあります。

これは教育だけの問題ではありません。
教育は、時間差を伴いながら「将来の日本の生産性」や「地域社会の力」に影響していく分野です。
教職が魅力ある仕事として若者に選ばれ続けるかどうかは、
国家全体の未来とも深く結びついていると言えるでしょう。

8.制度の外側にある“豊かな教育資源”(沖縄の状況は)

ここで、私が拠点としている沖縄の状況にも触れてみたいと思います。
沖縄県は全国でも出生率が高く、
子どもの数が比較的多い地域です。
その一方で、教員不足や学力格差など、
教育にまつわる課題も多く指摘されています。

しかし視点を変えると、沖縄には学校の外に豊かな教育資源が広がっています。
学習塾やスポーツクラブ、文化教室、地域の子ども会活動、
企業によるキャリア教育の取り組みなど、
子どもと関わる大人たちが多く存在します。

制度の外側にいる、こうした「教える力を持った大人たち」を、
どうやって公共の教育の中に少しずつ取り込んでいくのか。
これは、沖縄だけでなく全国に共通する大きなテーマになっていくと感じています。

9.制度を壊さずに“人材プールを広げる”という発想

ここまでの議論を踏まえて、
筆者の個人的な意見としては、
「制度を壊さずに人材プールを広げる」方向性が現実的ではないかと考えています。
具体的には、次のような仕組みが考えられます。

  • 補助指導者の認定制度
    短期研修と実習を修了した人を「授業補助専任」として認定し、
    免許はなくても授業サポートに入れるようにする。
  • 技能・科目限定の免許
    スポーツ、音楽、美術、プログラミング、探究学習など、
    特定分野に限って教壇に立てる仕組みを広げる。
  • 60歳以上のセカンドキャリア枠
    定年退職後の社会人経験豊富な人材を対象にした特別枠を設ける。
  • 教育支援員制度の全国的な整備
    すでに一部自治体で行われている教育支援員を、全国的に分かりやすく整備し、
    役割・研修・処遇を体系化する。
  • 特別免許状制度の積極活用
    大学教授や専門家だけでなく、企業人材や地域リーダーなど、
    多様な大人が限定的に授業を担当できるようにする。

これらは「資格なんていらない」という発想ではありません。
むしろ、資格制度の信頼を保ちながら、
現実の人材状況に合わせて入口を増やすための工夫だと考えています。

10.教育は“国の仕事”であり“社会の仕事”でもある

最後に強調したいのは、
「人材不足」という言葉は単に「人数が足りない」という意味だけではない、ということです。

制度の側が人材を受け止められず、
本来なら活躍できるはずの大人たちが制度の外に取り残されている状態も、
広い意味での「人材不足」と言えるのではないでしょうか。

教育は、国の仕事であり、行政の仕事です。
しかし同時に、家庭と地域社会が一緒になって育てていく「社会全体の仕事」でもあります。
学校、家庭、地域、それぞれが持っている力を、
どのように組み合わせ、支え合い、子どもたちの学びにつなげていくのか。

ペーパーティーチャーの活用は、
単なる「人手不足対策」ではなく、
私たちがこれからの教育制度をどう設計していくのかを考える、
一つのきっかけになっているのかもしれません。


執筆者情報

比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

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