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中学生のみなさん、そして保護者のみなさん。
「PTA」と聞いて、どんなイメージを持つでしょうか。
忙しい中での役員決め、参加できないことへの気まずさ、そして“誰かに負担が集中する”構図。
私は、沖縄で中学受験・高校受験の相談を受ける中で、学力以前に、こうした家庭と学校の関係に悩む声を数多く聞いてきました。
私は考えます。
PTAをなくすかどうかが問題なのではない。
「誰一人取り残さず、無理なく関われる仕組み」へ転換できるかどうか。
それこそが、これからの学校に問われている本質である。
その問いに、一つの答えを示したのが、大阪市の新しい公立校の取り組みでした。
参考記事の要約
記事タイトル:
PTAの代わりとなる保護者ボランティア組織を作った新設の公立小中一貫校、モットーは「役員なし」「活動の強制なし」「会費徴収なし」
リンク:
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/feature/iwasetekikasete/20251220-GYTAT00039/
- 大阪市立中之島小中一貫校では、PTAを設置せず、「なかのしまラボ」という保護者ボランティア組織を設立。
- モットーは「役員なし」「活動の強制なし」「会費徴収なし」。参加は完全に自由。
- 月1回の校内清掃「クリーン作戦」や、置き傘プロジェクト、卒業記念制作などを実施。
- 必要経費は寄付や参加者負担で賄っている。
- 共働き世帯の増加や少子化で、PTA活動を負担に感じる家庭が増える中、新しい形として注目。
- 専門家は「どのような形であっても、強制しないことが最も重要」と指摘。
※文部科学省は「PTAは任意団体であり、加入や活動は強制できない」との見解を示しています。
しかし現場では、事実上“断りづらい空気”が残っている学校も少なくありません。
なぜ今、PTAが限界と言われるのか
背景には、社会の大きな変化があります。
総務省の統計によれば、共働き世帯は全国で約7割に達し、もはや“専業主婦(主夫)がPTAを担う”前提は成り立ちません。
少子化により、1家庭あたりの役割負担は重くなり、核家族化(※親族の助けを得にくい家族形態)も進みました。
沖縄でも状況は同じです。
観光業やサービス業が多く、保護者の勤務時間は不規則になりがちです。
塾で保護者面談をしていると、
「仕事を休めず、PTA行事に出られないのがつらい」
「役員になったら続けられないかもしれない」
そんな声をよく耳にします。
にもかかわらず、学校を支える役割は、依然として“善意と根性”に頼る構造のまま。
ここに無理が生じているのです。
中之島の挑戦が示した希望
中之島小中一貫校の取り組みが画期的なのは、PTAを「続けるか」「なくすか」という議論ではなく、
「どう関わるか」をゼロから問い直した点にあります。
- 役員を置かない
- 活動を強制しない
- 会費を徴収しない
つまり、“やらされ感”を徹底的に排した。
個人的な意見としてですが、
「できる人が、できるときに、できることを、自分の子どものためにする」
この主体性が、かえって活動を活発にしたのではないでしょうか。
見落としてはならない影
一方で、私は手放しで称賛することはできません。
なぜなら、主体性に任せる仕組みほど、取り残されやすい家庭が生まれるからです。
沖縄県は、子どもの相対的貧困率(※平均的な所得の半分以下で暮らす家庭の割合)が全国でも高い水準にあると指摘されてきました。
また、ネグレクト(※十分な養育や関心が与えられない状態)に悩む家庭も、決して少なくありません。
子どもに責任はありません。
だからこそ、
“関われる家庭”だけで回る仕組みでは、学校は成り立たない。
この視点を、私たちは決して忘れてはならないのです。
属人化というもう一つの壁
もう一つの課題は、属人化(※特定の人に役割が集中し、その人がいなくなると続かなくなること)です。
ボランティア活動は、熱心な数人に支えられて回ることが多い。
しかし、その人たちが疲れ切ってしまえば、活動はあっけなく止まります。
「始める」よりも「続ける」方が、はるかに難しい。
これもまた現実です。
第三の道としての「小さな商い」【提言】
そこで私は、完全ボランティアでも強制PTAでもない、
第三の道を提案したいと思います。
それは、学校支援の活動が、ごく小さな“商い”(※教育目的を損なわない範囲の収益活動)を持つことです。
- 校内の自動販売機の設置収益
- クラスTシャツや記念品の制作利益
- 学校新聞への地域広告
- 地元企業からの協賛
目的は儲けではありません。
関わる人が“少し報われる”仕組みをつくり、持続可能(※長く続けられる)にすること。
沖縄の学校こそ、今議論を
沖縄の中学受験・高校受験の現場で、私は強く感じます。
学力の前に、環境がある。
環境の前に、大人の関わり方がある。
中之島の挑戦は、都会の話ではありません。
少子化、共働き、地域のつながりの希薄化という課題は、沖縄でも確実に進んでいます。
「うちの学校ではどうだろうか」
この問いを、今こそ沖縄の学校・保護者・地域が共有すべきなのです。
結び:静かな改革を、沖縄から
PTAをなくすことが目的なのではない。
強制をやめ、誰一人取り残さず、
無理なく関われる仕組みへと進化させること。
それが、次世代の学校に求められる改革である。
その中心にいるのは、いつの時代も、子どもたちです。
執筆者情報
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。










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