公立高校の「顔」をどうつくるか~沖縄県立学校と note pro 導入が、進路選択に与える本当の意味~

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中学生とその保護者にとって、高校選択は「学力」だけで決められるものではありません。どのような生徒が集い、どのような価値観のもとで、どのような3年間を過ごすのか。その全体像を、私たちはどれほど事前に知ることができているでしょうか。

こうした問いを投げかける中で、沖縄県教育委員会が発表した「県立学校公式ホームページへの note pro 採用」は、単なるIT導入以上の意味を持つ出来事だと考えます。

本稿では、まず事実を整理した上で、この取り組みが進路選択に何をもたらすのか、そしてどこに期待でき、どこに注意が必要なのかを、中学生・保護者の視点に立って、冷静に考察します。

参考記事の要約

沖縄県教委、全県立学校の公式ホームページに「note pro」を採用(ZDN Japan)

https://japan.zdnet.com/article/35241446/

  • 沖縄県教育委員会は、県立学校の情報発信力強化を目的に、株式会社noteと連携協定を締結した。
  • 県立中学校・高等学校・特別支援学校計84校と県教委に対し、法人向け高機能プラン「note pro」を無償提供する(計94アカウント)。
  • 従来の学校ホームページは、専門性が求められるため特定教員に業務が集中し、人事異動時の引き継ぎが課題となっていた。
  • note pro は直感的に操作でき、専門知識がなくても更新可能。広告表示がなく、教育現場でも安心して利用できる。
  • 約1年の移行期間を経て既存サイトから完全移行予定。日常の教育活動や行事、探究学習の様子などを継続的に発信し、教員負担軽減と学校の魅力向上を目指す。

※上記は参考記事を基にした事実整理であり、評価や意見は含めていない。

情報発信の強化は、進路選択の質を確実に高める

ここからは、個人的見解を含む考察となります。

まず評価すべき点は、沖縄県が「学校の情報発信そのものを教育環境の一部」と捉え始めたことです。

高校受験を控える中学生にとって、偏差値や合格実績は重要ですが、それだけでは判断できない要素が数多くあります。

  • 行事はどの程度活発なのか
  • 探究学習(※自分で問いを立て、調べ、考える学習)はどのように行われているのか
  • 生徒はどんな表情で学校生活を送っているのか

こうした「空気感」は、パンフレットや一度の説明会では伝わりにくいものです。日常的な情報発信があって初めて、進路選択は立体的になります。

特に沖縄では、説明会や見学に参加できる家庭と、そうでない家庭の間に情報格差が生じやすい現実があります。オンラインでの情報発信を充実させることは、教育機会の公平性(※情報へのアクセスの平等)を補う意味でも重要です。

私立無償化時代、公立高校は「語られる存在」でなければならない

近年、私立高校の授業料実質無償化が進み、「経済的理由で公立一択」という時代は終わりつつあります。

その結果、保護者と生徒は、「この学校で何を学び、どんな力を身につけるのか」を、より厳しく比較するようになりました。

にもかかわらず、公立高校の中には「教育内容は見れば分かる」「伝統があるから理解される」という前提に立ち続けている学校も少なくありません。

しかし、発信されない価値は、存在しないのと同じです。今回の取り組みは、公立高校に「自らの教育を、言葉と事例で説明する責任」を突きつけているとも言えるでしょう。

無償提供だからこそ、立ち止まって考えるべき点

一方で、慎重に見なければならない側面もあります。

note pro は現在、無償で提供されています。短期的には、コスト削減・業務効率化という明確なメリットがあります。

しかし中長期的に見ると、

  • 外部企業のプラットフォームに依存するリスク
  • 県内に情報発信ノウハウが蓄積されにくい可能性

といった懸念も否定できません。

「無償だから良い」という判断ではなく、県として何を内部に残し、何を外部と協働するのか。この整理がなされて初めて、持続可能な取り組みになります。

最大の課題は「誰が、何を書くのか」である

仕組みが整っても、情報は自然には生まれません。

学校現場はすでに多忙です。授業、部活動、校務分掌、保護者対応…。そこに「発信」を個人の善意に委ねれば、いずれ止まります。

過去にも、

  • 立派なホームページが作られたが更新されない
  • 数年前の情報がそのまま残っている

という事例は数多くありました。

同じ失敗を繰り返さないためには、

  • 発信頻度
  • 担当の分散
  • 内容の方向性

を、最初からルールとして定める必要があります。

教員は異動する。だからこそ「仕組み」が教育を支える

公立学校では、教員が数年単位で異動します。これは公教育の健全性を保つ制度である一方、属人化した業務を崩しにくい側面も持っています。

note pro の操作性は、この点において有効です。しかし本当に重要なのは、「誰でも引き継げる運用設計」がなされているかどうかです。

ツール導入だけで満足せず、運用そのものを教育委員会と学校が共に設計できるかが問われています。

教育の情報発信は、成果より「過程」を伝えるべき

教育者の情報発信は、非常に繊細です。成果を誇りすぎれば宣伝になり、慎重になりすぎれば何も伝わらない。

重要なのは、「成功」よりも「試行錯誤」、「結果」よりも「日常」を、丁寧に共有することだと考えます。

それは、保護者や中学生にとって、「この学校なら安心して任せられるか」を判断する材料になります。

おわりに

今回の note pro 導入は、沖縄県立学校にとって「完成形」ではなく、「問いの始まり」です。

  • 発信は継続できるのか
  • 教員の負担は本当に軽減されるのか
  • 進路選択に役立つ情報が届くのか

この三点が満たされて初めて、施策は成功したと言えるでしょう。

情報発信は、教育の周辺ではなく、教育そのものを支える基盤です。その質が高まることは、子どもたちの選択の質を高め、結果として沖縄の教育全体の信頼につながっていくはずです。

執筆者情報

比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

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