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この記事は、東洋経済オンラインの以下の記事を参考にしています。
沖縄の東大合格者が少ないのは「所得水準が低いから」ではない? 東京出身には分からない、地方ならではの意外で複雑な”ワケ”
1.参考記事の内容をコンパクトに整理する
まず最初に、参考記事の内容を「読みやすい要約」として整理します。
- 沖縄県の東大合格者は、2020年代は年間5〜10人程度。2025年入試では16人合格したものの、そのうち6人はN高(通信制)で、県内の普通科高校からはおよそ10人程度と紹介されています。
- 人数だけ見ると「極端に少ない」とは言い切れないものの、高校3年生1000人あたり0.5〜0.6人しか東大に進学しておらず、人口比で見ると47都道府県の中で「ほぼ最下位レベル」です。
- よくある説明は「沖縄は所得水準が低い → 教育格差 → 東大合格者が少ない」という構図ですが、記事では「それだけでは本質をとらえていない」と指摘しています。
- 全国学力・学習状況調査などをもとにすると、沖縄は意外にも通塾率が高く、「塾文化」がある程度根づいていることが分かります。小6・中3とも通塾率は九州の中では福岡に次いで高く、全国でも中位程度です。
- 中学受験については、開邦・球陽などの公立中高一貫校や昭和薬科中などの存在もあり、受験する家庭は増加傾向にあります。一方で、開邦中の算数の入試問題は「30分で東大生でも解き切るのは難しい」と感じるほど難度が高く、出題傾向がかなり独特だという指摘もあります。
- 逆に、高校受験の熱は全国に比べると低く、私立高校が少なく「私立併願」という文化が弱いことや、電車がないため通学可能な高校が限られること、内申点(通知表の成績)の比重が高いことなどが重なり、「学力は上位なのに偏差値の低い高校に進学する」ケースが他県より多いとされています。
- 記事の結論は、
「沖縄の東大合格者の少なさは、単純な“学力不足”ではなく、県外志向の弱さ・交通事情・高校受験の仕組み・評価制度など、複数の要因が絡み合った結果である」
というものでした。
ここから先は、この内容をふまえつつ、
公的なデータと、筆者(比嘉)の現場での実感、そして個人的な意見をまじえて整理していきます。
対象は、中学生とその保護者の方です。できるかぎりやさしい言葉で書きますが、難しい言葉には注釈を入れていきます。
2.数字で見る沖縄:そもそも大学に行く人が少ない
まず、「東大が少ない」という話をする前に、沖縄の大学等進学率(※高校卒業後に大学・短大・専門学校などへ進学する割合)を確認しておきます。
沖縄振興開発金融公庫などの調査によると、
- 令和5年度の沖縄県の大学等進学率は46.3%
- 全国平均は60.8%
- この数字は47都道府県の中で最下位レベル
つまり、沖縄では
「大学に行こうとする高校生そのものが、全国に比べてかなり少ない」という土台があります。
さらに同じ資料では、
- 1人あたり県民所得は国民所得の約7割で推移し、都道府県別では最下位クラス
- 子どもの相対的貧困率(※全体の“真ん中”の生活水準と比べて、かなり低い所得で暮らしている子どもの割合)は全国平均の約2倍という厳しい数字
が示されています。
「貧困だから東大が少ない」と単純に決めつけるのは正しくありません。しかし、
- 大学に進む母数が少ないこと
- 家庭の経済的な余裕の少なさ
が背景にあるのは、やはり無視できない事実です。
3.「琉球大学を頂点とする県内完結モデル」が合理的に見える理由
ここからは、筆者の個人的な意見としては、沖縄には次のような「進学と就職のモデル」が強く根づいていると感じています。
(1)県内にとどまりたいという気持ちが強い
参考記事でも指摘されていましたが、沖縄では、
- 親も子も「県外に出たくない」「子どもを県外に出したくない」という思いが強い
- 「東京の大学に行くより、琉球大学に行ってくれたほうがうれしい」という価値観も少なくない
という傾向があります。
これ自体は決して悪いことではありません。むしろ、
- 親自身が沖縄で生まれ育っている
- 祖父母や親戚も近くに住んでいる
- 生活基盤がすべて島の中にある
という状況を考えると、とても自然な感覚だと言えます。
(2)県内の“安定職”は、ほとんど琉大でカバーできる
沖縄で「安定していて、比較的高収入」とされる仕事を思い浮かべると、
- 公務員(県庁・市役所・教員など)
- 医師(特に琉球大学医学部ルート)
- 沖縄電力などのインフラ系企業
- 地元銀行・信用金庫などの金融機関
が中心になります。
これらの進路は、「琉球大学 → 県内就職」というルートで十分に狙える場合が多く、
- 東大や他府県の難関大でなくても就ける職業が多い
- 「琉大を出ていれば何とかなる」というイメージが強い
という現実があります。
その結果、
「東大に行って東京で勝負する」よりも、
「琉大に行って、県内で公務員・医師・銀行に就職する」ほうが、
親にも子どもにもイメージしやすく、リスクも小さく見える。
という構図になりやすいのです。
(3)東大に行っても、県内では“給料に直結しにくい”現実
もうひとつ大きいのが、「東大卒」という肩書きが、沖縄県内の収入にそのまま上乗せされる仕組みになっていないことです。
- 東大に行くためには、学費だけでなく、下宿代や生活費もかかる
- 卒業して沖縄に戻っても、「東大卒だから給料が高い」という職はそれほど多くない
- 県外の大企業に就職すると、今度は「沖縄に戻りにくくなる」問題も出てくる
こうした事情を踏まえると、
「東大を目指すより、琉大を目指すほうが、費用対効果(コスパ)が良さそうだ」
と考えるご家庭が多くても、決して不思議ではありません。
ですから、
「東大に行かない」のではなく、
「東大に行く必要性が、経済構造上なかなか生まれにくい」
と整理したほうが、実態に近いと感じます。
4.高校受験の構造:「挑戦しづらい」システム
参考記事の中で、学習塾ガゼットの先生方が語っていた高校受験の話は、沖縄の構造を考えるうえで重要なポイントです。
(1)私立併願がほとんどない、という特殊事情
本土の多くの地域では、
- 公立の「チャレンジ校」を受験
- 落ちた場合の保険として、偏差値の近い私立高校を併願
という受験スタイルが一般的です。
しかし沖縄では、
- 私立高校そのものが少ない
- 「公立一本勝負」になりやすい
- 落ちた場合、「かなり偏差値の低い近所の高校」に“相談入学”というケースもある
といった事情が重なっています。
偏差値56くらいの実力があるのに、
少し上の偏差値58の高校に落ちた結果、偏差値35くらいの高校に進学する──。
こうした例が珍しくないという指摘は、教育に関わる者としてかなり重く受け止める必要があります。
(2)交通事情と内申点の重さ
さらに、沖縄特有の条件として、
- 電車がないため、通学可能な高校が「自転車圏内」に限られやすい
- 入試で内申点(通知表の成績)の比重が高く、実力テストでは上位でも、内申で不利になる生徒がいる
という現実があります。
その結果、
本来ならもっと上のレベルを目指せる力があるのに、
環境や制度のせいで挑戦しにくい生徒が、沖縄には一定数いる。
と言わざるを得ません。
5.親の学歴・意識と「教育の再生産」
ここからは、筆者が学習塾を運営する立場からの個人的な意見になります。
教育社会学の言葉で「教育の再生産」という言葉があります。
これは、
親の学歴や価値観が、そのまま子どもの学歴や進路に受け継がれていく現象
のことです。
(1)学力に投資する家庭と、そうでない家庭
沖縄で学力重視型の学習塾を運営していると、
- 公務員・医師・銀行員
- 県外の国立大学・難関私立大学の卒業生
- 起業家など、自分で学び続けている大人
といった方々のお子さんが、多く通っている印象があります。
彼らの共通点は、
- 中学受験・高校受験の情報をよく調べている
- 模試の偏差値や入試制度を理解しようと努めている
- 「必要だと思えば、ある程度の教育費は投資する」という覚悟を持っている
という点です。
一方で、
- 「そこまで勉強させなくてもいいのでは?」
- 「塾に行くと遊べなくてかわいそう」
と感じる保護者の方も、決して少なくありません。
もちろん、子どもの心身の健康を守ることはとても大事です。
しかし、「学ぶ時間」そのものが少なすぎる状態では、
偏差値50以上の大学を目指すための土台が積み上がりません。
現場の実感としては、
勉強する子は、とことんやる。
勉強しない子は、ほとんどやらない。
という二極化が進んでいるように感じます。
(2)「親の学歴=子どもの限界」ではない。大事なのは“今の姿勢”
ここで強くお伝えしたいのは、
低学歴の親だから、高学歴の子どもを育てられない
──という話では、決してない。
ということです。
筆者の経験上、
- 自分は大学に進学していない
- でも「一緒に勉強する」「一緒にオープンキャンパスに行く」親御さん
- 子どもの夢を否定せず、「じゃあどうやったら行けるか考えよう」と寄り添う親御さん
こうしたご家庭の子どもは、本当に力を伸ばし、次のステージへ進んでいくことが多いです。
大切なのは「親の最終学歴」ではなく、
今、この子のために、どこまで一緒に学び直す覚悟があるか。
だと、筆者は考えています。
6.中学生と保護者に伝えたい3つのポイント
ここまで読むと、
- 「うちは東大なんて関係ない話だろう」
- 「もう手遅れなんじゃないか」
と感じたご家庭もあるかもしれません。
しかし筆者としては、むしろ、
ここから先は「家庭の意識次第」で、進路の可能性はいくらでも変えられる。
とお伝えしたいです。
ポイント① 「選べるだけの学力」をつける
東大に行く・行かない、県内に残る・県外に出る。
どの選択をするにしても、前提として、
選べるだけの学力がなければ、そもそも選択肢に乗らない。
という事実があります。
偏差値(※テストの平均点を50として、自分の位置を数字で表したもの)が50を超えてくると、行ける高校・大学の選択肢は一気に広がります。
逆に、偏差値40前後では、どうしても「行けない学校」が多くなります。
どこに進むかは最後は本人の自由ですが、
- 行きたい場所を、自分の力不足だけであきらめなくていい状態にしておくこと
は、親子で意識してほしいポイントです。
ポイント② 親も「情報」と「しくみ」を学び直す
入試制度は、少しずつ姿を変えています。
- 共通テスト
- 推薦入試・総合型選抜(旧AO入試)
- 奨学金制度
- 県外進学と県内就職の関係性
など、「知らないと損をする情報」がたくさんあります。
スマホ1台あれば、かなりの情報が得られる時代です。
「よくわからないから」と目をそらすのか、
「一緒に調べてみよう」と子どもに声をかけるのか。
この小さな差が、数年後の進路の差になることは間違いありません。
ポイント③ 「東大かどうか」より、「どう生きるか」を一緒に考える
最後に、筆者の個人的な意見としては、
「東大」という名前そのものに、あまり過度な意味を持たせないほうがよい。
と考えています。
それよりも大切なのは、
- 自分はどのような仕事をしたいのか
- どこで暮らしたいのか(沖縄か、県外か、海外か)
- 将来、家族や地域とどう関わっていきたいのか
といった「ライフデザイン(人生設計)」です。
大学は、そのライフデザインを実現するための手段のひとつです。
「東大に行くこと」よりも、
「学ぶことで、自分の人生の選択肢を広げられたかどうか」。
そこに、学びの本当の価値があるのではないかと感じています。
7.おわりに──沖縄から、もっと多様な進路のロールモデルを
この記事では、
- 参考記事の内容
- 公的なデータ
- 筆者が現場で感じていること
を組み合わせて、
「沖縄から東大が少ない理由」を整理してみました。
まとめると、次の4点が見えてきます。
- 沖縄は大学等進学率そのものが全国最下位で、「大学に行く」こと自体がレアな選択肢になっている。
- 県内志向が強く、琉球大学を頂点とする「県内完結モデル」がある程度合理的に機能しており、「東大に行く必要性」が感じにくい構造になっている。
- 私立併願の少なさや交通事情、内申重視の入試など、高校受験の仕組みが「挑戦しにくい環境」を生み出している。
- 経済的な厳しさと、親の学歴・意識の差が、「教育への投資」の差として再生産されており、それが進学格差を固定化させている。
しかし同時に、塾の現場で日々生徒たちと向き合っていると、
- 沖縄の子どもたちには十分なポテンシャルがある
- 学ぶ意欲さえ育てば、どこまでも伸びていける
ということも、強く感じます。
だからこそ、
- 県内で力を発揮するロールモデル
- 県外や海外でチャレンジするロールモデル
が、もっと増えてほしい。
その一端を、中学受験・高校受験の情報発信を通して担えたら──。
そんな思いで、これからも沖縄の教育について発信を続けていきます。
執筆者情報
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。講師歴20年以上。学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。
※本記事の内容は、公的データと参考記事をもとに、筆者の現場での実感を交えてまとめたものです。数値や制度は今後変更される可能性がありますので、最新情報は公的な発表もあわせてご確認ください。








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