「好き」が未来を変える──佐賀大学“コスメ学部”が示した、地方と沖縄の新しい学び方

地方大学が挑む、新しい教育モデル

2026年春、佐賀大学に「コスメティックサイエンス学環(学部相当)」が新設される。医療・化学・経済といった学問を横断し、化粧品を通じて人体の仕組みと社会のニーズを学ぶという新しい試みだ。

教授として就任予定の徳留嘉寛氏はこう語る。
「医療をはじめ、多様な角度から化粧品を学べる点が魅力です」

学生は皮膚科学から商品企画まで、幅広いカリキュラムを学び、企業との連携授業やインターンも予定されている。卒業後は研究職、商品開発、マーケティングなど、幅広い進路が想定されている。

「地域の強み」を教育に変える──佐賀コスメ構想の成功

佐賀県は2013年に「佐賀コスメティック構想」を打ち出し、県産の花や植物を活かした化粧品開発に取り組んできた。その結果、県内の化粧品生産額は2014年の64億円から2023年には135億円へと倍増。県の成長産業としての地位を確立しつつある。

さらに、財務省の貿易統計によれば、2024年の日本の化粧品輸出額は約5400億円に達した。国産コスメは品質の高さで海外からも注目を浴び、観光立国・日本を支える新たな輸出産業へと育ちつつある。

こうした背景のもとで生まれた佐賀大学の新学環は、まさに「地域の産業を教育に取り込む」成功モデルである。

🔗 出典:産経新聞「佐賀大が来年度新設の『コスメ学部』に熱視線 地方創生、リケジョ育成…競争率8倍」(2025年10月25日)
「前期日程18名の定員に対し、志願者146名、倍率約8倍。志願者の約9割が女性だったという。」

性別ではなく「関心」で進路を決める時代へ

報道では「リケジョ育成」という言葉が強調された。だが、本質は“女性に限られた話”ではない。

美容・健康・香り・発酵──そうしたテーマは、男子もLGBTQ+の生徒も、自分の感性を通して学ぶことができる。今の時代に必要なのは、性別ではなく、「どんな関心を持ち、社会とどう関わりたいか」という視点だ。

化粧品を科学的に学ぶことは、外見を整えるためではなく、「人の心と身体を支える技術」を追究することでもある。そこにこそ、性別や立場を超えた“人間中心の学び”の価値がある。

AIの時代に、人間らしい学びを

AI(人工知能)の発達によって、情報を集め、分析することは容易になった。しかし、AIには「香りの記憶」や「肌のぬくもり」を感じ取ることはできない。

だからこそ、「人を感じ取る力」を育てる教育が求められている。コスメ学部で学ぶことは、単なる化学実験ではない。それは、人の幸福や健康、美しさと向き合う「感性の科学」なのだ。

佐賀大学の取り組みは、AI時代における“人の手による学び”の再評価でもある。

沖縄にも眠る「学びの資源」

このニュースを読んで、私は沖縄の教育にも同じ可能性を感じた。沖縄には泡盛、黒糖、島野菜、薬草、海藻、塩といった地域資源が豊富にある。それらを科学的に研究し、産業や観光と結びつけることで、「地元で世界とつながる学び」をつくることができるはずだ。

実際、東京農業大学の醸造学分野は、泡盛の酵母や発酵研究に長年関わってきた。全国的な知見が沖縄に還元されていることは喜ばしいが、同時にこうも思う。「なぜ、地元の大学が主導する形で発展してこなかったのか」と。

琉球大学に芽吹く研究の“兆し”

琉球大学は、泡盛古酒の香り成分「バニリン」の生成メカニズムを解明し、黒麹菌「琉古株」を活用した新しい製品化にも取り組んでいる。この実績は、“沖縄にすでに種がある”ことを示している。

今後は、農学・理工学・経済・観光・デザインなど、複数分野をまたいで学べる“琉球サイエンス学環”のような仕組みが生まれれば、沖縄発の新しい教育モデルとなるだろう。

「大学で何を学ぶか」が未来を決める

少子化で“大学全入時代”が近づくなか、「どこの大学に入るか」よりも、「何を学び、どんな力を身につけるか」が問われている。

学びとは、点数や偏差値では測れない。自分の“好き”を掘り下げ、それを“誰かの役に立てる形”に変えていくことが、本当の意味での進路選択だと思う。

そして、それはどんな職業にも通じる。医療もITも観光も、すべて「人を幸せにする技術」である点で共通している。

沖縄の未来へ──「地域が大学を育てる」発想を

佐賀大学の新学環は、県と企業、そして大学が三位一体で作り上げた。つまり、「地域が大学を育て、大学が地域を育てる」仕組みだ。

沖縄もまた、そうした循環をつくることができる。地元企業が大学と連携し、研究を実用化する。高校がその成果を探究活動で受け継ぎ、地域全体で人材を育てる。

教育は「学校の中」で完結しない。地域が動けば、学びが広がる。

“好き”の火を消さない社会へ

佐賀大学の挑戦は、地方創生のニュースにとどまらない。それは、「好きなことを学んでいい」という時代の宣言でもある。

中学生や高校生に伝えたい。将来が見えなくてもかまわない。いま心が動いた瞬間こそが、あなたの“出発点”だ。

教育とは、知識を詰め込むことではなく、人の心にある小さな火を見つけて、消さずに育てること。その火が灯り続けるかぎり、地方も、国も、必ず変わっていく。そして次の“佐賀大学の挑戦”は、きっとこの沖縄から生まれる。


執筆者情報
比嘉 大(ひが たけし)
沖縄県を拠点に、中学受験・高校受験に関する情報発信を行う教育インフルエンサー。

学習塾の運営のほか、調剤薬局、ウェブ制作会社、ウェブ新聞「泡盛新聞」の経営など、25歳で起業して以来、自社7社・間接経営補助10社を展開。「教育が沖縄を活性化させる」という志を持ち、地域学力や家庭教育の課題について積極的に発言している。

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