子どもが自分で学びを選ぶ学校から考える、公教育のこれから


福島県大熊町に誕生した「学び舎ゆめの森」。一斉授業や一回限りの定期テストに依存せず、子ども自身が学び方・進度・学ぶ場所を選ぶ仕組みで注目を集めています。本記事では、参考記事の要約と、保護者・中学生に向けたナラティブ(心情に寄り添う語り口)での考察をまとめました。
参考記事:「一斉授業」と「定期テスト」をやめたら…町立学校の正体(プレジデントオンライン)
学校公式:学び舎ゆめの森(公式サイト)


参考記事の要約

  • 学校の概要:福島県大熊町に2023年開校。こども園+義務教育学校+学童保育が一体化した公立の学び舎。震災・原発事故を経た町の再生拠点でもある。
  • 学びの仕組み:一斉授業・一発勝負の定期テストに依存せず、自由進度学習(子どもが進度・方法・場所を選ぶ)を採用。単元テストは何度でも再挑戦可能。宿題や金曜時間割も子どもと先生の交渉で決定。
  • 校舎と地域連携:最大5万冊規模の図書空間を中心に設計。図書空間は映画会や講演にも活用。体育館は避難所機能を意識した床材。コミュニティスクールとして地域と運営を協議。
  • 多様な子どもに対応:不登校経験や発達特性を含む多様な背景の子が在籍。異年齢の交流やDE&I会議(多職種で子どもを多面的に把握)を重視。記事では「不登校の復帰・改善に高い傾向」と紹介。
  • ビジョン:「『わたし』を大事にし、『あなた』を大事にし、みんなで未来を紡ぎ出す」。管理から伴走へ、教師の役割を転換。

私たち(保護者と中学生)にとっての意味―ナラティブ

1.「素晴らしい」という第一印象と、現実へのまなざし

記事を読み終えたとき、胸に残ったのは「本当に素晴らしい挑戦だ」という思いでした。町が一度“空白”になった場所に、子どもたちの学び直しの灯がともる――これは教育を超えて、地域の再生の物語でもあります。一方で、私たちが暮らす地域でそのまま同じモデルを導入できるかといえば、現実には人材・予算・文化の違いという壁があります。だからこそ、理念を学び、方法は地域に合わせて設計することが大切だと感じました。

2.昔と今、コミュニティの姿が変わった

かつては近所の大人が自然に見守り、先生が地域から深く信頼され、家庭・学校・地域が三位一体で子どもを育てていました。今は核家族化や忙しさから、「教育は学校が全部やるもの」という誤解が広がりがちです。学校任せではなく、家庭・地域がそれぞれの持ち場で関わること――それが子どもの安心と挑戦を支える土台になります。

3.先生の役割を「管理」から「伴走」へ

自由進度学習では、先生は「答えを配る人」から「学びを支える伴走者(パートナー)」へと役割が変わります。子どもが自分の方法を試し、失敗してやり直す。そのプロセスに寄り添うのが先生です。これは大人側の意識改革が必要で、簡単ではありませんが、子どもが学習者として自律するための鍵になります。

4.評価は「一度きり」から「何度でも学び直せる」へ

私は、一発勝負の定期テストに大きな意味は感じません。ただし、子どもの到達度を定期的に把握する仕組みは不可欠です。紙のテストだけでなく、プレゼン・作品・学びの記録(ポートフォリオ)・日常の観察も含め、多面的評価(※注:複数の方法で力を見ること)に切り替える必要があります。

5.(重要)沖縄進学塾で観察されている「学力低下」について

実務の現場から、具体的な懸念を共有します。当塾(沖縄進学塾)では、直近の到達度テストや模試で、一部学年の基礎・基本(計算力・語彙量・読解の精度)に低下傾向が観察されています(塾内の定点観測データによる)。個人差はありますが、以下の傾向が目立ちます。

  • 「読んでから解く」ではなく、すぐに答えを探す行動が増え、設問の条件取りこぼしが生じる。
  • 四則・割合・比の計算の正確性と速度が不安定化し、思考の前段階でタイムロスが発生。
  • 英語は語彙・チャンク(意味の塊)の蓄積不足により、長文の骨格を早く掴みにくい。

これらは「定期テストの有無」だけで説明できるものではありません。学習時間の総量・日々の読み書き習慣・スマホ接触時間・睡眠の質など、複数の因子が絡み合っています。ゆえに、学校評価の制度設計への賛否と、家庭と塾での学習行動の最適化を分けて議論することが重要です。

当塾の当面の対策(ご家庭でできることを含む):

  1. 週次ミニCBM※の導入:語彙・計算・音読(国語/英語)を1回3〜5分の短時間計測で定点観測。
    ※CBM=Curriculum-Based Measurement(カリキュラム準拠の短時間到達度測定)
  2. 「読む→要点線引き→要約一言」の型化:読解の前処理を家庭学習に実装(親子で見本を1問一緒に)。
  3. 計算は“速度×正確性”を別軸管理:タイムアタックとケアレス率を分けて記録。週単位で可視化。
  4. 英語はチャンク先行:教科書の定型表現を音読→スラッシュリーディング→暗唱の順に積み上げ。
  5. スクリーンタイムと睡眠のガイドライン:就寝1時間前はスクリーンオフ、寝室は勉強道具ゼロ、起床時は強めの自然光。

なお、鏡原中学校の「定期テスト廃止」と学力の因果については、公開データが限定的で、統計的な結論を出せる段階ではありません。「下がっているように見える」という体感は体感として尊重しつつ、検証可能なデータ(学校・自治体・模試等の客観指標)と、上記のような具体的学習行動の改善を並走させることが現実的です。

6.偏差値は「子どもの価値」ではなく、進路設計のための座標

偏差値(※注:全体の中での位置を示す相対指標)は、子どもの価値そのものではありません。けれど、進路や受験計画を組む「座標」としては有用です。運動や芸術が記録や入賞で見取りされるように、学力もいくつかの指標で見取る。ただし、指標の使い方を間違えない――ここが肝心です。

7.多様な得意を伸ばせる公教育へ

将来像として、基礎学力を共通で押さえたうえで、学力特化・スポーツ特化・芸術特化・技術特化などの選択肢が豊かな公教育が広がると、子どもは自分の「得意」を伸ばしやすくなります。学び舎ゆめの森のように、子どもが選び、やり直し、また挑戦する構造は、その土台になります。

8.家庭・学校・地域で分担し、子どもの「自分ごと化」を支える

学校は、学びの設計と多面的評価を。家庭は、生活リズム・読書習慣・短時間の基礎反復を。地域は、安心のコミュニティ本物の出会い(仕事体験・文化体験)を。それぞれが役割を持ち寄ることで、子どもは学びを自分ごととして引き取れるようになります。


おわりに

学び舎ゆめの森」は、全国一律でコピーできる“答え”ではなく、私たちが各地域で“創るべき問い”を示してくれました。
子どもが自分に合った学び方を見つけ、失敗してもやり直せる。そんな当たり前を、家庭・学校・地域で支えていく。
沖縄進学塾としては、観察されている学力低下を直視し、短時間・高頻度・可視化の原則で学習行動を立て直しながら、多面的評価へ移行していきます。保護者の皆さま・地域の皆さまと共に、子どもの「選ぶ力」と「やり直す力」を育てていければ幸いです。

※本記事の中で「観察されている学力低下」は、当塾内の定点観測(到達度テスト・模試・日常観察)の総合所見に基づくもので、個人差があります。学校制度と学力の因果は、公開データ・継時的データに基づく検証を要します。

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