親子の脳はどこまで似ている?――最新研究が描く「似る地図」と家庭で活かす学びのポイント

本記事は、東北大学の松平泉助教らが iScience(2025年7月18日公開)に発表した論文
「Parent–offspring brain similarity: Specificities and commonalities among sex combinations – the TRIO study」
の内容と筆者の感想をもとに、中学生とその保護者向けにやさしく解説したものです。


1. 参考論文のポイント ― どんな研究?

研究チームは、日本人生物学的親子トリオ152組(父・母・高校生以上の子)を対象にMRIを撮影し、

  • 父親に似る脳領域
  • 母親に似る脳領域
  • 両親に似る脳領域
  • どちらにも似ない脳領域

の存在を明らかにしました。さらに「どこが誰に似るか」は子どもの性別や測定指標によって異なることも示唆されています。

2. なぜ画期的なの?  ― 親子関係を脳レベルで可視化

2‑1 母子研究の「かたより」を克服

従来研究の多くは母子ペア中心でしたが、今回は父親を含む三者同時解析。これにより、たとえば
息子の前頭前野の一部は父親に、娘の同じ部位は母親に似やすい」などの詳細な地図が描けるようになりました。

2‑2 性格・学習スタイルとの橋渡し

親子で似やすい行動特性(心配性・挑戦好きなど)が、遺伝 → 脳の形 → 行動という中間層を経て連鎖する可能性が見えてきます。

3. 似かたの 4 分類を俯瞰する比較表

分類 主な領域(イメージ) 子どもが受けやすい影響 指導・声掛けのコツ
父親に似る部位 前頭前野(計画・ワーキングメモリ) 手順化が得意/即断即決型 目標を数値化しペース管理を任せる
母親に似る部位 側頭葉(共感・感情理解) 感情の機微に敏感/協調重視 感想を言語化させ、共感を承認
両親に似る部位 言語系ネットワーク 語彙習得が早い/読書好き 家庭読書タイムを親子で共有
どちらにも似ない部位 報酬系の一部 独自の興味が強い/探究型 興味の種を幅広く提示し選ばせる

4. 今後起こるかもしれないこと

  1. 個別最適化学習:脳画像+遺伝+性格テストを組み合わせた「発達プロファイル」サービスの登場。
  2. メンタルヘルスの予防:親と似る脆弱領域を学校カウンセリングでモニタリング。
  3. 観察力教育の普及:「自分は親のどこに似ているか」を考えるメタ認知授業が拡大。

5. 双子研究も示す「遺伝の底力」

ミネソタ双子研究では、一卵性双生児が別々に育っても性格や趣味が驚くほど似た事例が報告されています。今回の TRIO 研究は、こうした「遺伝+脳形態」の橋渡しを担う成果と言えます。

6. 中学生と保護者が今日からできる備え

6‑1 親子で「似ているところ」探しワーク

顔やしぐさだけでなく、勉強の進め方・気分転換法まで書き出して共有しましょう。

6‑2 観察+記録の習慣

  • 子ども:3行日記で行動・感情をメモ
  • 保護者:声掛けの内容・タイミングをメモ

6‑3 多様な刺激を安全に試す

音楽・スポーツ・プログラミングなど、新しい体験を「合わなければやめてOK」の前提で挑戦できる環境を整えましょう。

6‑4 悩みの「共有ルーム」を設定

スランプや友人関係の悩みを家族会議で共有し、親の乗り越え方/子のアイデアを並べて比較します。

7. おわりに ― 脳科学がくれる柔軟な視点

親子の脳は「似る部分」も「似ない部分」も自然なものです。
似るところは強みとして伸ばし、違うところは個性として尊重する
その柔軟な視点が、思春期を迎える中学生と保護者の安心感と自己肯定感を支えてくれるでしょう。

参考論文:Matsudaira I, Yamaguchi R, Taki Y. iScience 28(7): 112936 (2025)

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