沖縄県が導入を目指す「ラーケーション」とは
沖縄県では、子どもたちの多様な学びの機会を広げるために「ラーケーション」という新しい取り組みの導入を検討しています。これは「ラーニング(学び)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた言葉で、学校を休んで保護者と一緒に平日に体験学習や家族の時間を過ごす制度です。
事前に学校に届け出をすれば「欠席扱い」にはならず、正当な教育活動の一環として認められます。この制度は2023年度に愛知県で初めて導入され、その後全国各地に広がっています。沖縄県内でも、2024年度から座間味村が「ざまやすみ」として導入し、一定の成果を挙げています。
観光や接客業など、不規則な勤務形態の保護者が多い沖縄では、子どもの休みと親の休みが合わない家庭も少なくありません。そうした背景をふまえ、沖縄県は2025年9月にも県立学校で試験的な導入を目指しています。
親子で過ごす“学びの時間”の大切さ
この「ラーケーション」は、単なる休みではありません。むしろ、家の外での体験が“学び”そのものとなる新しい教育の形です。たとえば、美ら海水族館を訪れて海洋生物の多様性を学んだり、伝統工芸の現場で職人の技にふれたりすることで、教科書では得られない生きた知識が身につきます。
特に、観光業やサービス業に携わる保護者が多い沖縄においては、「土日では一緒に過ごせない」という家庭も珍しくありません。そのような状況の中で、「平日に一緒に学びに出かけることができる」制度は、多くの家族にとって希望になるでしょう。
感想①:新学習指導要領の現実と、その中での一筋の光
近年の新しい学習指導要領では、「詰め込み型」とも言えるほど学習内容が増えています。中学生や小学生も、日々たくさんの教科書を背負って、時間に追われるように勉強しています。
そんな中で、家族とのふれあい、実体験、心のゆとりを重視する「ラーケーション」は、非常に意義のある制度だと感じます。「学びとは何か」という根本を見直すきっかけにもなるのではないでしょうか。
ただし、受験を控えた小学6年生や中学3年生にとっては、スケジュール上の制約があり、なかなか利用しにくいのが現状です。そのため、導入時期や対象学年に一定の工夫が求められるでしょう。
感想②:家庭環境によって生じる格差の問題
制度としての理想は高くても、現実には“格差”の問題も考えなければなりません。
たとえば、観光地へ連れて行ける余裕のある家庭と、経済的に厳しい家庭とでは、「ラーケーション」で得られる体験の質に差が出てくる可能性があります。そうなると、子どもたちにとっては「行けた/行けなかった」ではなく、「得られた体験の格差」がそのまま将来の差につながりかねません。
たとえば、ある子はラーケーションで県外の博物館や科学館を訪れた経験があるのに対し、別の子は家でテレビを見て過ごすだけだった──。それが「体験の差」として残ってしまうのです。
感想③:AO入試とラーケーション体験の関係
近年、AO(アドミッション・オフィス)入試や推薦入試では、単なる学力だけでなく「主体的に学び、体験してきたか」が問われるようになっています。つまり、「どんな体験をしてきたか」は、将来的に高校や大学進学において“加点材料”になる可能性があるのです。
この流れをふまえると、「ラーケーション」を活用できた子どもと、できなかった子どもとのあいだに、入試時点で“見えない差”が生まれてしまうのではないか、という懸念もあります。
感想④:制度とセットで「補助策」を考えるべき
だからこそ、「ラーケーション」を本当に平等な制度にするためには、「行ける家庭だけが得をする仕組み」にしてはいけません。
たとえば、自治体や学校が以下のような補助的制度を併せて導入することが重要です。
①経済的に厳しい家庭への交通費補助や体験費用補助
②地域の事業者と連携した無料の体験学習プログラム
③家庭の事情で親と出かけられない子どものための「学校内ラーケーションデー」など
こうした仕組みがあれば、家庭環境に関係なく、すべての子どもが「学びと体験の休暇」を楽しめる社会に近づくはずです。
「ラーケーション」が問い直す、これからの“学校”のあり方
この取り組みは、「学校とは何か」「学びとは何か」という問いを、私たちに投げかけています。教室で机に向かうだけが学びではなく、自然や社会、家族との関わりの中にも、大切な学びがあることを改めて認識する機会です。
「成績」や「受験」ばかりに追われるのではなく、人としての経験や豊かさを育むことも、子どもたちの成長には欠かせません。だからこそ、「ラーケーション」は単なる制度ではなく、「新しい価値観」を広める役割も担っているのです。
中学生と保護者に伝えたいこと
中学生のみなさんへ。学校を休んでどこかに出かけることは、ただの「サボり」ではなく、立派な学びになる時代が始まろうとしています。でも、それは遊びに行くだけではなく、「何を学びたいか」「どんな体験をしたいか」を自分で考えることがとても大切です。
保護者のみなさんへ。「平日に休ませるなんて」と感じる方もいるかもしれません。でも、親子で過ごす特別な時間は、子どもにとって一生の宝になります。「学ぶ場は学校だけじゃない」と思える柔軟な目を、ぜひ持っていただけたらと思います。
まとめ:多様な学びが未来をつくる
「ラーケーション」は、まだ始まったばかりの制度です。成功するかどうかは、制度をつくる側だけでなく、使う私たち一人ひとりの理解と協力にかかっています。
誰もが平等に、心の豊かさや学びの深さを得られるように──。この新しい“学びの休暇”が、未来の沖縄の教育をもっと自由で、もっと人間らしいものにしてくれることを願ってやみません。
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